【彼方のアストラ】感想 手と手を繋いだ友情の物語
こんにちは、ナバッキオです。
今回は原作漫画が「マンガ大賞2019」の大賞作品に選ばれた『彼方のアストラ』の感想です。
1クールに収めてありますが、初回と最終回は1時間のスペシャル扱い。それだけでも製作者側の作品に対する熱意をひしひしと感じますが、毎回の作画クオリティも高いですし、非常に丁寧に作り上げられているので見応えは十分です。
しかも内容も非常に濃いですし、視聴者を楽しませるストーリー構成も見事でしたよね。
それでは感想をはじめます。ここからはネタバレも含みますのでご注意ください。
彼方のアストラ
スタッフ・キャスト
あらすじ
ケアード高校B5班の学生8人は、惑星キャンプに出発するためにムーサニッシュ宇宙港に集合していました。
学生だけで行う惑星キャンプには班ごとに課題が設けられますが、B5班の課題はキトリー・ラファエリの10歳の妹、フニシア・ラファエリの同行という、異例の課題だった。
これから共にキャンプをすると言うのによそよそしいメンバーたちは宇宙船に乗り込んで、目的地の惑星マクパへと出発しました。
船内でアリエスは、この班のキャプテンをしたがるカナタ・ホシジマにその理由を尋ねました。するとカナタは将来、宇宙の探検家になりたい。キャプテンの経験がその一歩になるからだと答えました。
惑星マクパに着くと、学校の宇宙船は直ぐに飛び去りました。ロッジでキャンプの支度をするために移動をしようとしたその時、皆の眼前に正体不明の球体が姿を現しました。
好奇心の強いルカ・エスポジトがその球体に触れると一瞬にして内部に飲み込まれてしまう。逃げるメンバーを次々と飲み込む謎の球体。目を覚ましたカナタ達の行きついた先は宇宙空間でした。
幸いにもB5班のメンバーは宇宙空間において目の届く距離に集まっていて、そして偶然にも目の前には無人の宇宙船が。近くの荷物を回収し、宇宙船に移ったメンバー。しかしそこで、1人足りないことに気付きます。
スーツの通信機とスラスター(宇宙空間での移動を可能とするエアーの噴射機のような物)が故障してしまったアリエスが、まだ宇宙空間に取り残されていました。
ワイヤーリールを見つけたカナタはワイヤーを体に縛ってアリエスの救出に向かいます。しかし、あと一歩というところでワイヤーが足りなくなってしまいます。カナタはワイヤーを外して、スラスターで近づいてアリエスを抱きかかえました。
残り少ないスラスターで船を目指しますが、推進剤は底をつき、侵入コースもずれてしまった。船内のメンバーに諦めのムードが漂いましたがザック・ウォーカーはある提案を皆に呼びかけました。
進入角度がずれ、船に帰れないと半ば諦めていたカナタの前にウルガー・ツヴァイクが唐突に現れました。スラスターで慣性を相殺してカナタを抱きかかえるウルガー。そして、カナタの前に差し出された手。全員で手を取り合い1つのロープとなることで、2人は無事に救出されました。
無事に宇宙空間から船内に戻ってこれたB5班メンバーでしたが、状況はかなり深刻なものでした。船の通信機は壊れて学校と連絡が取れない上、現在地はなんと5012光年離れた宇宙だったのです。キャンプに来ていた惑星マクパが9光年であるから、かなり遠くに飛ばされたことになります。
宇宙船の運転免許を持っているザックは、帰るとしても3か月は掛かると試算しました。しかし、それだけの水も食料もなく状況は絶望的。メンバー間でいざこざが始まり、見かねたカナタは中学1年生の時に自分が遭難した話をします。
こんな時にバラバラになってはいけないと言うカナタの話を聞き、皆で手をつなぎ、初めて自己紹介をするメンバー。それがヒントとなり、帰る道が見つかりました。水と食料がある惑星を幾つも繋いでいくことで帰れる道が1つだけあったのです。
キャプテンシートに腰をかけたカナタは第1の目的地への出発指示を出します。
宇宙船アストラ号は惑星ヴィラヴァースに向けて出発しました。
彼方のアストラ 感想・見どころ
作りこまれたストーリーに驚きの連続だった
原作コミックスが全5巻で完結と決して長編の作品ではありませんが、それ故に起承転結の結に向けて、しっかりと丁寧にストーリーが作りこまれていた印象を受けました。台詞回しや視覚的に入ってくる情報からも様々な伏線が張られていて、「あ、あの時の台詞ってこういう事だったのか」と、思わず唸ってしまう作品でした。
楽しくなるはずの学生たちのキャンプを一転して生死をかけたサバイバルへと豹変させたのは、謎の球体でした。その球体に触れると、瞬間的に遠く離れた場所にワープさせられてしまい、学生たちは皆、宇宙に放り出されてしまったのです。
そしてワープした先で手に入れた宇宙船では通信機が意図的に壊されていることが分かったり、フニシアが児童養護施設で「B5に入れて一斉殺処分」と言うきな臭い言葉を耳にしていたりで、どうやらこのアクシデントが仕組まれたものであり、ここにいるメンバー全員が殺されるために集められたのだという答えに達します。しかも、この中に裏切り者がいることもわかりました。
何故このような、純粋で将来のある若者が殺されなければならないのか。誰が、何の目的でこんな計画を実行しているのか。そうやって序盤の3話くらいでガンガン謎を投入してくる展開で、観ているこちらはどんどん混乱していきます。
そして中盤を過ぎた辺りから物語は怒涛の勢いで収束していきます。
計画の黒幕、集められた意味、ワープする球体の謎、刺客の正体、そして世界の秘密。
それらが鮮やかに紐解かれていくプロットは素晴らしいの一言でした。しかも、それまでにそれとなくヒントが与えられているんですよね。唐突に「こうだったんだよ」と提示されるのではなく、ちゃんと伏線が張られているのです。さりげない台詞、行動、メンバーの一挙手一投足に注目しながら観ることを強くお勧めします。
”繋ぐ”に込められたメッセージ
彼方のアストラが前面に打ち出したメッセージは”繋ぐ”という言葉と私は捉えています。
未知の惑星でのサバイバルやSFなど、作品を構成する主要素も重要かもしれませんが、繋ぐと言う意志や行動に様々な意味合いを持たせているのが本作の最大の特徴でありメッセージです。
主人公のカナタは中学生の時にキャンプ先で遭難して恩師を失っています。この時、崖にしがみつく先生の手を掴むことが出来たなら、先生は助かったかもしれません。そんな悔恨を背負っているから、カナタは困っている人がいたら真っ直ぐにその腕を差し伸べることができる青年になりました。
そんな彼は惑星マクパからのワープ後、宇宙船に自力で来れないアリエスを命懸けで迎えに行きましたが、帰りには推進剤も底をついて、宇宙船への侵入角度にもずれが生じてしまい絶体絶命でしたが、船に残ったクルーが手を繋ぎ合ってカナタを迎えてくれたのです。
また、帰るために途中の惑星を繋ぐことで帰還への希望が生まれ、宇宙船のトラブルでは全員で協力して電気ケーブルを繋いでピンチを乗り越えました。
手を繋いだり、危機を乗り越えるために全員で行動することで、クルー達の絆は深まっていきます。本来ならば気がおかしくなりそうな無限に広がる宇宙での遭難と閉鎖的な船内の中にあって、いつも明るく前向きでいられたのは、少しずつ繋いできた絆があったからに他なりません。
「手を繋ぐと怖かった宇宙が綺麗にみえます」とアリエスは言いました。手を繋ぐことは1人ではできません。1人じゃないと思えば、こんなにも安心できる。アリエスはそう言いたかったのだと思います。
お互いに支え合いながら続いた旅は、誰一人欠けていても最後の結末を迎えることはなかったでしょう。
信頼できる仲間がいることの素晴らしさを再認識させられました。
まとめ
しっかりと作りこまれたストーリー、特に視聴者に投げかけた謎を解明していく後半の展開は凄く良かったです。流石はマンガ大賞に輝いただけのことはあるなと感服いたしました。
それから、キャラクターもみんな魅力的でした。始めこそ、なんだこいつら(特にキトリー)みたいな感じでしたが、一緒にいる時間が長くなるにしたがって、少しずつ皆、素直に自分を表現するようになっていく。そんなところもしっかりとエピソードを立てて丁寧に描いているので、感情移入もひとしお。
彼らの会話は若者らしい恋ばなもあれば、ふざけ合っているシーンとかもあって、こんな状況なのに、その強さに驚かされると同時に仲間って良いなとも思わせてくれます。そんな、自分の境遇に悲観的にならない彼らの前向きな姿勢に胸を打たれました。
ただ、非常にご都合主義的な部分もあるんです。そこの捉え方によっては全く評価が変わってしまう作品でもあるのかなと思いました。
私は第1話を見た時点で友情ものとして割り切っていたので、SFやサバイバル、都合のいい展開も全て物語の土台でしかなく、どんどん個性的で屈託のない若者たちに感情移入して物語を楽しむことが出来ました。
彼らは幾つもの奇跡的な幸運に恵まれますので、そういうところに厳しい方には向かないかもしれません。
最後に、若者の友情に熱くなれる人には絶対お勧めの作品です。まだ観ていない方は是非観てみてください。