【ヴァイオレット・エヴァーガーデン】感想 感情を持たない少女ヴァイオレットが愛を知る物語
こんにちは、ナバッキオです。
いきなりですが、皆さんが最後に手紙を出したのはいつですか?
E-mailなら毎日でも、という方はたくさんいらっしゃると思いますが、私が今イメージしているのは紙のやつです。
今の時代、手紙をしたためてポストに投函する。もしくは手渡すと言った行為は、なかなかする機会が減ってきましたよね。かく言う私も、手紙を書いたのは3年も前の話で、下の子を出産するために入院している奥さんに、長男と私とで励ましと感謝の気持ちを綴ったのが最後です。
我が子の出産の為とは言え、帝王切開を2度も繰り返してくれた彼女に、私はこれ以上ないくらいの感謝をしています。腹を決めた女性の強さ、これが母性というものなのか、後日、彼女は弱音一つ漏らすこともなく手術室へ向かいました。
本当に尊敬しています。心からありがとう。
さて、前書きが長いのが私のブログの特徴ですが、何かの拍子でここに来てしまった方も、そろそろ飽きられてブラウザバックの準備をされていることでしょうし、早急に本題に移ろうかと思います。
今回、感想を記事にしようと思った『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』も、そんな手紙にまつわるお話で、手紙を通して人の想いを知っていく少女の物語です。
ヴァイオレット・エヴァーガーデン
あらすじ
戦うための道具として生きてきたヴァイオレットは、戦争の終結のきっかけとなった戦いで大きな怪我を負ってしまいました。
病院のベッドの上で手紙を書く彼女の両手は、銀色に鈍く光る義手へと、その姿を変えていました。
そこに1人の男がやってきました。彼はクラウジア・ホッジンズと言い、元軍人の男です。ヴァイオレットの上官、ギルベルト・ブーゲンビリア少佐に代わって、ヴァイオレットを迎えに来たのです。
ヴァイオレットはギルベルト少佐の安否を尋ねますが、ホッジンズは彼女の事を想ってその詳細を伏せておきましたが、ギルベルトは既に未帰還兵として処理されていました。
ホッジンズに連れられて訪れたのは港町のライデン。ここでヴァイオレットはエヴァーガーデン家の養女として迎え入れられ、戦争の終わった世で新しい人生を歩みだすはずでしたが、戦争のために極限まで削られた彼女には感情がありません。
ホッジンズはヴァイオレットをこのままエヴァーガーデン家に預けておくこともできず、自分の立ち上げたC.H郵便社に連れていきました。
そこでヴァイオレットは自動手記人形、通称ドールと出会います。それは依頼人の言葉を手紙にする代筆業のこと。自動手記人形の仕事を見ていると、依頼人の口から「愛してる」という言葉が零れました。それは、ギルベルト少佐が離れ離れになる直前に言い残した言葉でもありました。
しかし、ヴァイオレットにはその言葉がわかりません。
少佐が残してくれた「愛してる」を知りたい。その思いで、ヴァイオレットは自動手記人形となることを決めたのでした。
ヴァイオレット・エヴァーガーデン 感想・見どころ
感情を持たない少女を突き動かした「愛してる」
ヴァイオレットは幼い頃から戦争の道具として扱われていました。訓練では人を殺すこともあったのでしょう。極限の精神状態であったことは容易に想像することが出来ますよね。
だから、彼女はずっと感情を持たずに生きてきた訳で、当然のように、ギルベルト少佐の最後に言い残した「愛してる」の意味も分かりませんでした。それを知るためにヴァイオレットは自動手記人形として働き始めたのです。今までは少佐の命令にしか意味を見出せなかったヴァイオレットが、初めて自分で人生の選択をした瞬間でした。
手紙を通して多くの人の気持ちに触れるたびに、ヴァイオレットは愛がどのような感情なのかを知っていくことになります。そしてギルベルト少佐がどれだけ自分の事を想っていてくれたのかに気付くのですね。
ギルベルト少佐の「愛してる」は、ヴァイオレットを異性として捉えているようでもありますが、私はどちらかと言えば家族への愛に近いような気がしています。自分と一緒に幸せになって欲しいと願うと言うよりは、1人の女性として自由に生きて幸せを手にして欲しいと願う、父親としての「愛してる」が近いのではないでしょうか。
親から子への愛情と言えば、第10話のエピソードがとても胸に刺さりました。
ヴァイオレットはきっと、このお嬢様と自分を重ねたのではないでしょうか。寂しがり屋で、母親を求めるお嬢様と、ギルベルト少佐が死んでいるとの噂を耳にして、その真偽を確かめずにはいられないと、少佐を求めて歩き続けた自分を。
仕事を終えたヴァイオレットはお嬢様の事を想って、人目をはばからずに泣きました。ヴァイオレットが愛を深く感じ取っていることが伝わってくる一幕でした。
罪と向き合う
愛を知れば知るほど、自分が今までにどれ程の愛を踏みにじって来たのかに気付かされたヴァイオレット。
この作品の一番のテーマはここにあると言えるでしょう。
ヴァイオレットも戦争の被害者なのは言うまでもありませんが、多くの人を手にかけてその人の幸せを奪い、多くの愛を踏みにじってきた。ホッジンズが言っていた通り、ヴァイオレットは全身を火傷していたのです。
それなのに自分は少佐に生かされている。このことにヴァイオレットは懊悩します。
ヴァイオレットは戦時下であり、尚且つ軍隊に戦争の道具として仕上げられた身ですが、はたして人は環境に支配されていたとはいえ、犯した過ちは赦されるのか。
これはとても難しいテーマです。
難しすぎて、ここで筆が止まってしまう程です。しかし私はこの作品が選んだ答えを素直に喜びたい。
確かに、してきたことは消えない。でも、自動手記人形としてしてきたことも、同じように消えないとホッジンズは言いました。これまで自動手記人形として多くの人と関わり、想いを繋ぎ、勇気を与えた。そんな奇跡を起こせたのはヴァイオレットだからこそなのです。
ヴァイオレットが辿りついた愛とは
自動手記人形の仕事を通して多くの愛に触れたヴァイオレット。彼女が<少しはわかる>ようになった愛とはいったいどのような感情だったのでしょうか。
作品を通して家族愛が多く語られますが、上記にも記した通り、ギルベルトからヴァイオレットへの「愛してる」も、私は家族としてと捉えていますが、ギルベルトの母親もやはり、息子を心から愛していました。
帰ってくることはないけれど、息子は心の中で生きているという母親。ヴァイオレットは涙を流しながら強く頷きました。
とても苦しい愛を知ることとなったヴァイオレット。ですが、愛とはもっと多くの素敵な感情を与えてくれるものでもあります。
自動手記人形を続けることによって、ヴァイオレットが素敵な愛と出会えることを願わずにはいられません。
まとめ
どの回をとっても心に響く素敵な作品でした。
ヴァイオレットの容姿だけを見ていたから、初めはここまで重いテーマだとは思っていなかったんですけどね。戦争と、兵器として存在していたという生い立ちはやはり悲劇的だし、だからこそ愛が引き立つと言った感じでしょうか。
戦争で失った両腕の設定も、正直ちょっとやりすぎなのではとも思っていました。戦争孤児で道具扱い。これだけでも十分すぎるほど悲惨なのに、両腕も失うなんてと。
しかしこれが後半になって効いてくるんですよね。
血に染まった両腕をあの時に失ったのは、その過去を引きずりながらも清算して新しい人生を歩むための始まりだったと捉えることが出来ます。そしてヴァイオレットは言葉を紡ぎ手紙にしたため、人々の心を繋ぐ為に新しい腕を使うのです。
それから後半では人を守るためにも使っていました。人生のやり直しの象徴として、義手は大切な役割を担っていたと思います。
映像面に注目すれば、そこは京都アニメーションなので作画は終始、素晴らしい出来でした。流石は数々の作品で神作画と呼ばれるアニメを輩出してきた、日本を代表するスタジオです。
人物作画は最高峰です。これは言うまでもありません。しかし私がこの作品を見ていて目を奪われたのは、背景の描写なんですね。これが本当に美しいのです。
山々の緑、湖の水面、しっとりと降る雪、窓ガラスを打つ雨、そして花。
どれも目が冴えるような鮮やかさと美しさで描かれ、私は一瞬たりとも見逃したくない思いで、食い入るように画面を見つめていました。
これだけでも私はこの作品を多くの人にお勧めしたいと思うのですが、登場人物たちに共感できないと、ただただ冗長な物語を見せられているといった感想にも成りかねない平坦さは正直あります。
なのでしっとりと人物の機微に触れ、共感したい。というタイプの方は是非とも鑑賞していただきたい作品です。
シリーズとしては「外伝」「劇場版」と今後の展開も発表されていて、京都アニメーションの本気具合が伺える作品でした。